「彰宏さん、こんにちは」


珍しいなあ。大体この時間は、お仕事で外に出ているのに。


華道の名門麻生家の当主様はいつでも大忙し。

仕える家系の私の家族、お父さんやお兄ちゃんもよく付き添いで行っている。



「仕事が早く切りあがったんでね、帰ってきたんだ」

「そうだったんですね、お疲れ様です」

「ありがとう。でね、柚ちゃんに話があって君を待ってたんだよ」

「え、私に……ですか?」



一体何なんだろう。

疑問を顔に浮かべた私を見てやさしく笑う彰宏さん。

「ついて来てくれるかな?」の一言に頷き、後を追っていると。


到着地はあろうことか本家。


……翠君に会っちゃうかも……気まずい。

まさか彰宏さんに事情を説明するわけにもいかないし、何事もないフリをして本家に上がらせてもらった。


相変わらず広い。私の家の何十倍なんだろう。

ちょっと前までは堂々と玄関から入るなんて絶対有り得なかったのに……



「さ、柚ちゃん、入ってくれるかな」

「あっ、はい」