―――……


拷問のような部活がようやく終わり、辺りはすっかりオレンジ色に染まった。

春とはいえど夕方になれば気温は下がり、冷え込んでくる。

時刻は6時前。今から帰れば夕飯の時間にピッタリかな。


逃げるように部室を抜け、りっちゃんの目を盗んで校門をくぐる。

悪い子じゃないんだけど、ね……うん。


でも、まさかあんなこと聞かれるなんて思わなかった。


「……説明なんかできないよ……」


忘れたわけじゃない。しっかり、身体に刻み込んだあの夜の事。

彼の冷たい体温と私の高い体温が中和して、自分じゃない温度が混ざり合う。

囁かれた言葉も、触れた指先も、ちゃんと覚えてるよ。


ただ、たった一回だけで

……それっきり、私達の間にそういうことはないけど。

翠君、私のこと本当はどう思ってるんだろう……


数え切れないほどの不安を抱えながら、麻生家の特徴でもある立派な門を通り抜ける。

いつもと同様、本家の近くにある自分の家を目指して歩いていた。


が、いつもと違うことが一つ。


「やあ、柚ちゃん」


私が手入れをしている花壇の前に見えた、袴姿の彰宏さん。

即ち、ここの当主であり翠君のお父さん。


性格は似てないけど、顔つきや体型は翠君にそっくりだ。