「……いたよ」


たったそれだけ。主語もない、簡潔な言葉。

が、それでもあーちゃんを椅子から落とすほどの武器になったらしい。


「は!?」と大声がしたと思えばガタンっ、と更に大きな音。

なぜ椅子から落ちたのか分からない。

ひーちゃは『我関せず』とでも言いたそうに、速やかに視線を逸らした。


「何で!?何でお前があんな美女と!?」


机に手をつき落下した身体を引きあげる。


あーちゃん……黙ってればそこそこいいと思うのは僕だけ?


写真の中は本当別人だな、みっちゃんの腕がいいだけか……とどうでもいいことを考えてしまう。

それほど、この話題には突っかかってほしくないんだ。



「別に……特に理由はないけど」

「待て待て待て。他のヤローが聞いたらぶん殴られるぞ」

「は…?」

「柳澤美鈴っつったらそこらのモデルより美人だろーが。うちの学校のヤツが何人告ったか知ってるか?」



美鈴さんって、そんなに凄い人なんだ……


僕が彼女を知ったのは翠の婚約者、というのがキッカケだった。


いや、それ以前に委員会が一緒だったけど、まず美鈴さんは覚えていないだろう。

彼女が2年、僕が1年の時の話だし。



「ていうか、あーちゃんに言ってなかった?美鈴さんって翠の婚約者だったんだよ」