……知り合いでもいたのかな。
その視線を追いかけ、僕も左に目をやれば。
「え、」
女性で溢れるフロアの中、スラッとした身長の男が目につく。
茶色の髪、白い肌、切れ長の瞳。
横顔でも分かる。僕とよく似た、翠だと。
ただ問題はそこじゃない。
柚が固まった理由――それは翠の隣にいる、女の子の、せいだ。
「……は?何、してんのアイツ」
女の子は翠に駆け寄り嬉しそうに何かを見せる。
翠は笑ってはいないけれど、その子に対してちゃんと答えているようだ。
……いや、ちょっと待って。
アイツが女性だらけのファッションビルにいることも十分おかしいけど、この際これは抜きとして。
何で、女の子といるわけ?
まわりを見渡しても翠とその子以外見えない。てことは、二人きり。
どう見てもおかしい。理不尽。
「電話の子だ……」
「え?」
隣から吐かれた言葉に耳を疑う。
電話の子?柚は翠と一緒にいる子を知っているの?
けど、今にも泣きそうな顔をしているこの状況でそんなことを考えていられない。
今すぐここから、連れださなきゃ。
「帰るよ、柚」
さっきと同様、柚の腕を掴みエスカレーターへ向かう。
最初は動くことを躊躇していたけど、強く力を込めたらようやく足を動かしてくれた。
……ああ、もう。何でこういうことになるんだろう。
僕達に安息の地など、―――どこにもない。

