……何だ、これ。どっか、おかしい?
持久走を終えた後のようにどくどくと早い脈拍も、身体中の体温が上昇していくのも
今まで感じたことのない感覚で、どう対処していいのか分からない。
これ以上このままだったら、本気でおかしくなってしまうんじゃないか。
ぎゅっと深く目を閉じたその時、すっと離れた、彼女の細い腕。
「……困らせちゃった、わね。ごめんなさい」
「……や、違…」
「でもね、これだけは覚えておいて」
一オクターブ低くなった声。
さっきから煩い心臓のお陰で、大事な言葉を聞き逃してしまいそうだ。
微かに美鈴さんに近づき耳を傾けると、その耳元で囁かれた。
「仮定じゃなくて、現実」
……それが何を意味するのか、混乱している頭では理解できない。
疑惑を抱き眉を寄せた僕を見た美鈴さんは、静かに笑みを浮かべた。
「もしも、ばかりの話じゃないってことよ」
「……え?」
それって、どういう――、
イマイチ奥が読めなくて更に付けたしを催促しようとしたけど、彼女は既に店の外。
真っ直ぐに伸びた黒髪が、歩くたびに揺れている。
モデルのように高い身長も、異常に整った顔立ちも
全て柚と正反対の彼女。

