本音ではそう思っていないけど。



ただ、柚の心理が知りたいために敢えてヤツの名前を挙げる。

すると予想通り、微かに眉を寄せて苦い顔になった。



「悪いことなんかしてないよ」



……翠の名前を出して不機嫌になるなんて、前じゃ考えられなかったのにな。

僕が何の話をしようと、翠に勝るものはなかった。


それが今じゃ別人。

半年前の柚はどこにいったんだろう。



「……そ?なら、僕今から行くけど」

「うん。バッグ取ってくるからちょっと待ってて?」



ジョーロを水道に戻し家へ向かって走り去る柚。


3ヶ月前は誰よりも近くにいたのに。

ずっとずっと、幼い時からいたのに。

あまりにもあっさり、それも一番憎い男に奪われてしまうなんて。


それでも柚が選んだ幸せなら、今更どう足掻いてもしょうがないと判断した。



……けど。



「お待たせ、碧君」



実際、幸せなのかな、とたまに考える。

二人の問題だし僕は関係ないけど、少なくとも今の状況は良いものじゃない。



「行こ?バス停」

「そうだね」



だから翠、早くアクションを起こしてくれよ。


そうしないと、

諦めるものも、諦めがつかなくなるんだよ。



柚には聞こえないよう溜め息を吐き、バス停までの道のりを歩きだした。