『それ、なかなか似合ってんじゃん』


つい先日、部活で使う機材を買いに部員(一番だらしないヤツ)と出かけた時。

真剣に機材を選んでいる僕に対し、明るい声を発しながら長い指をこっちへ示す。


何が?と思って視線を追って気づいた時、どういう表情をしていいいのか分からなかった。


これを貰ったのは冬。イコール、一つの季節が過ぎている。


あの頃の僕はちっとも周りを見ていなかったから、どうして僕にこれをくれたのかも理解できなかった。

波濫の冬を超え春になり、学年が上がる。

自動的に過ぎていく日々の中、微かに蠢(うごめ)く気持ちと心。


……そろそろお返し、したほうがいいかも。


何をあげたらいいのか、何が喜ぶのか、なんて知らない。

ずっと昔から一緒にいる人なら分かることも、別の人となるとさっぱりだ。

つくづく僕は周りを見ていない。


「お出かけなされるんですか?」

「ああ、はい」


玄関先でお手伝いさんに声をかけられ短く返答。

いつもの笑顔で「行ってらっしゃい」と言われ、小さく笑い返し家を出る。


春の穏やかな気温が全身を包み込み、太陽の日差しが眩しい。

異常にでかい敷地内を歩き門を目指していると、花壇で水やりをしている女の子が目に止まった。

肩で切りそろえられた髪。小柄な身体。



―――約10年間、想い続けていた人。