『あ、翠先輩?』
……私の考えを翻す、甘い声。
どう考えたって女の子しか出せないそれが、静寂な部屋に響く。
動揺が隠せない。
別に、婚約したからといって他の女の子と仲良くしてほしいとかじゃ、ない。
ただ……こういう時には、女の子からの電話に出てほしくなかった。
私だけ異世界に飛ばされたかのように、翠君の電話は続いている。
『……で、こうなったんですよ。翠先輩は大丈夫ですか?』
「あー、多分」
『よかったー!先輩来なきゃ嫌ですもん』
―――ズキッ
片想してた頃より激しく痛む胸。
何よりこの会話が、私の目の前で繰り広げられていることがとてつもなく嫌で。
至近距離にいる翠君は電話を切ったりしないし、短い返事だけどちゃんと答えている。
『晴れるといいですよね』
……やだ、いやだ。
私の知らない事で盛り上がってほしくないよ。
こんなに近くにいるのに、どうして話しているのは私じゃないの?

