抱きついていた腕を緩め、身体を少し離した。
服の擦れる音が妙に響く。
切れ長の目と視線が交わった時、どくんっと心臓が反応した。
「勝手に、すれば」
―――普段の私だったら絶対に言えない言葉が、不思議に感じるほどスラスラ出てくる。
至って平常の翠君は一ミリも表情を変えずにそう返した。
……肯定の返事だって、解釈していいよね。
片手を首からずらし、白い頬に添える。
余りの冷たさに驚いてしまったけど、私の体温が異常に高いだけかな。
高鳴る鼓動を必死で押さえながら意を決め、ぎゅっと目を閉じて顔を近づけた、その時――
ピリリリッ、ピリリリリリ
……突如響いた機械音。
はっとなって目を開けば、その音源は翠君の胸ポケットに入っている携帯からで。
どうするんだろう、と携帯を見つめていると
彼は一瞬も躊躇せず、ポケットから携帯を取り出した。
「はい」
……え、う、嘘。
今の体勢――頬に手を添えてキスする直前だったのに、電話……
いやでも、本家に関する大事なお客様かもしれないし。
だったらしょうがないよね。

