名前を呼んだ直後、静かに私の手は解放された。
温もりが消えて朝の空気がそこに触れる。
そして、さっきまでは無かった指に光るモノ。
「え?」
左手の、薬指。
そこにはシルバーのシンプルな指輪がはまっていた。
中央に光るのは一粒の宝石。深い緑色のエメラルド。
……なんで、指輪……
そんな私の疑問を打ち消したのは、身近で聞こえた彼の声。
「誕生日おめでとう」
――そう言われて初めて、私は今日が何日なのか気づいた。
世間はゴールデンウィーク初日。穏やかで過ごしやすい季節。
5月、2日。
そうだ、今日、誕生日。私の誕生日だった。
ばっと顔を上げれば、表情は崩さずに口端だけ上げている翠君がいて。
一気に降ってきた現実に頭が追いつかない。
「な、なんで……うそ、今日、…?」
「忘れてたわけ?」
「や、忘れてたんじゃないけど…っ、その、今日が何日なのかわからなくて」
ここ最近、私は日付も忘れるくらい悩んでいた。
原因はファッションビルで翠君と一緒にいた女の子のこと。そして、峰さんの家に翠君と行くこと。
峰さんの件については彰宏さんに聞かされた時から頭から離れなかった。
結論的に言えば翠君のことばかり考えていただけなんだけど。

