「……あー、だから、」
緊張、してるけど
翠君がなかなか話を切り出してくれないから、緊張に謎がプラスされる。
さっきから一体どうしたんだろう。
コトバに躊躇する姿なんて初めてみたなあ。
やがて彼は言いかけたコトバをすっぱり切り、私の方へ一歩近づく。
「どうしたの?」
フチから手を離す。彼の方へ身体を向き直す。
ザ、と小さく風が二人の間を吹き抜けた。
「手、出して」
「手?…はい」
「右じゃなくて左」
「あ、うん」
差し出した左手をきゅっと掴まれた。
真意がよめなくて微かに眉を寄せると、掴む手に力が籠もる。
ますます謎は深まるばかり。
翠君がよくわからないのはいつものこと。でも今日はより一層わからない……
「あの……本当にどうしたの?」
手を握られることは嫌じゃない(寧ろ嬉しい)けど、どう対応していいんだろう。
ここで迫っちゃっていいの?…なんて、無理無理。シチュエーション的には悪くないと思いますが。
なんて考えを侍らせていると、急に翠君は制服のズボンに片方の手を突っ込んだ。
そして何かを取り出し、取り出した物を私の手を握っている方の手へ持ち変える。
何だろう、と思ったとき、フイに感じた冷たい感触。
「……翠君?」

