――そう、言われてみれば
ここ数年、人前で笑ったことがなかった。
ましてや声を上げて笑うなんて、記憶を遡ってもいつが最後かわからない。
……なんで俺、笑ってんだろう。
他人が聞いたら眉を寄せるような疑問が頭の中に浮かび上がる。
でも、きっと、俺はその答えを知っている。わかっている。
わかって、いるんだ。
「……碧君?」
急に静かになった俺が心配になったのか、美鈴さんは空いた距離をわずかに近づける。
近づいてきた瞬間、月光に照らされて白く輝く腕を掴んだ。
視界に映るのはポカンと口を開いて呆気にとられた表情。
こういう顔もするんだ、とまた一面を知れたことに口元が緩む。
「お願いがあるんですけど」
「お願い?」
「聞いてもらえますか?」
俺の口元が笑っているからか、彼女は少し考えるようにして黙る。
そして「……、内容によるわ」なんて、シブシブといった風に了解の返事をくれた。
大人っぽいのかそうでないのかイマイチわからない。

