人が反論している時間もくれないらしい。
あっという間にスルリと外された眼鏡。
レンズに度は入っていないから、当然だけど見えてる景色は変わらない。
が、いつも耳に感じる重力がないのは違和感を覚えた。
「あの、返してください」
家の中以外はいつもかけていたから、やっぱりどこか気恥しい。
10年もしていると顔のパーツの一部に感じてしまうのだ。
が、彼女はまたもや俺を無視して独り言のように呟いた。
「やっぱり似てるわね、麻生君に」
……そりゃあそうだろう。
そう言われるのが嫌だから眼鏡をかけた。アイツと似てる顔を隠すために。
そして、柚にアイツ以外を見てもらうために。
眼鏡をかけていない姿を家族以外に見られるのは去年の文化祭以来、……じゃない。
頭に蘇るのは去年のクリスマス。
そこまで思い出した途端、ハッと彼女へ顔を向けた。
「……なんであの時、俺ってわかったんですか」
「え?」
「眼鏡してなかったのに」
具体的なことを伝えていないがそのフレーズだけでわかったらしい。

