クロスロード


映画の時から気になっていた。

ずっと一緒にいる柚にさえ訊かれたことないのに。いや、柚に訊かれていたら自分を偽る意味がないけど。


仮面を被るのが日常的になっていて、既にどっちが本当の自分かわからなくなるくらい。

柚を想い続けた期間が長かったせいか今さら自分のことを『俺』と呼べないし、眼鏡も生活の一部になっていた。


だから美鈴さんに訊かれた時、心臓が止まるかと思った。

どうしてバレたんだって、どこかで焦っている自分がいたから。



「……さっき言ったじゃない」

「え?」



彼女の声にいつの間にか俯いていた顔を上げる。

クリーム色のワンピースが風に舞い、裾を掴みながら切なげに笑った。



「碧君のこと好きだから。見てたから、わかったの」



どくん、と心臓が大きく脈を打つ。

頬に当たる冷たい夜風。……じゃない。

フと思い立って頬に手を当てる。


それは別に冷たくも何ともなかった。

冷たく感じたのは、僕の頬が熱かったからだ。



手から力が抜けてゆっくりと頬から離れていく。

頭の中で、何かが切れた。