でも何より僕を動揺させたのは、美鈴さんの存在だった。
「ずるいって思ったけど……それと同じくらい、羨ましかった」
アルトの透き通る声でハッと我に返る。
相変わらず噴水を見つめている後姿。そのフチに手をついている。
「柚さんになりたかったわけじゃないわ。でも、生まれた時からずっと一緒にいる関係が羨ましかったの」
……そうだ。
物心ついた頃、既に僕の小さな世界には翠と柚がいた。
いつから一緒にいるかなんてわからない。
まわりの大人たちから生まれた時から一緒にいると聞かされていたから、そうなのだろうけど。
柚のことなら何でも知っている。
好きな食べ物や服のブランド、内気な性格だけど意思はしっかりしているとこも。
そして、何があっても翠を好きなことも。
「柚さんは碧君のこと、何でも知っているのよね」
「……、そんなことないですよ」
「そうかしら」
「柚は僕に『本物の碧君が見たい』なんて言いません」
美鈴さんがハッとした表情で振り返る。
僕はベンチに座り、怖いくらい整った彼女の顔を見ながら言葉を続けた。
「なんであんなこと言ったんですか?美鈴さんの前で自分を崩したことない、のに」

