「やっぱり覚えてないのね」
……。
と、いうことは。
美鈴さんが翠の婚約者になる前に、僕と彼女はどこかで関わっていた?
必死に記憶を巻き戻す。……だめだ。思い出せない。
「碧君、1年生の時保健委員やってたでしょ?」
「へ?」
突然、思いもよらない言葉が出てきて声が裏返った。
隣にいた彼女はス、と立ち上がり少し先にある噴水へ近づく。
傍へ行くと噴水の縁に手をつき静かに流れる水を眺めた。
背を向けられてしまったため、僕の場所からは表情が窺えない。
「あたし、その時保健委員長やってたのよ」
ワンピースの上に羽織っている薄いカーディガンが揺れる。
それを眺めていた時、ぼんやり蘇ってくる昔の記憶。
「――…、あ」
確かに僕達は会っていた。
今から2年前の、とある秋の日に。

