例のシーン、とは翠が女の子と歩いてこと。
あの時柚は相当動揺していて帰りの会話もロクに成立しなかった。
僕もなんで?って思ったけど、よくよく考えれば翠があんなことするのは必ず理由がある気がした。
確信はないけどわかる。
だからその事だけは解いてほしい。僕だって柚の悲しむ顔なんて見たくないから。
「碧君は毎年、柚さんの誕生日を祝ってたの?」
「まあ一応……。今年からは祝えなそうですけど」
はは、と軽い笑みを零す。
すると美鈴さんはきゅっと唇を結び、視線をどこかに泳がせながら僕を見た。
いつもは見せないその表情に心臓が反応する。
「じゃあ、」
既に太陽が沈んだこの時刻、近くに街灯がないため彼女の表情はよくわからない。
でも、
「碧君の誕生日は、誰が祝ってたの?」
「……いや別に、特には」
「今年、の予定は?」
「…え?」
その表情が赤く見えるのは、僕の気のせい?
そして何より今のコトバ。
誕生日の予定を聞かれるなんて思わなかったから返答に声がつまった。
「……あたし、碧君の誕生日、一緒に過ごしたい」

