そういえば昔、誕生日すら嫌になったこともあった。
翠と柚は誕生日が繋がっているのにどうして僕だけ5日なのだ、と。
小さい頃は当主様が3人まとめてゴールデンウィーク中にお祝いしてくれていたけど、でも。
誕生日なんて変えることなどできないのに、どこまでも僕は細かい考えを持っていた。
「まあ、柚は翠の誕生日忘れてても翠は柚の覚えてると思いますよ」
「麻生君ってそういうこと興味なさそうだけど……」
「柚だったら別ですよ。絶対に」
翠が何を考えているのかなんて知らないし、無表情の顔からは何も読みとれない。
けどそういうことはわかる。
最近ようやく理解してきたのだ。
長い間柚を想い続けていたのは僕だけじゃない、ということ。
ずっとずっと手に入れたかった女の子。
10年前のような純粋な気持ちで柚を想っていたんじゃない。
アイツだって僕と同じだ。
どうすればいいかわからないまま、時だけが過ぎていった。
そしてやっとの思いで手に入れた女の子の誕生日を忘れたりなんかしないだろう。
でも、ファッションビルで見かけた例のシーンだけは柚の誤解を解いてほしい。

