彼のことになると小さなことでも気になって頭から離れられなくなる。
実際、あの日は家に帰ってからの記憶は曖昧になっている。
「翠君、付き合ってる子がいるの?」
「……は?」
思いっきり引きつった顔。
いつも無表情なのにここまで崩れるのは珍しいかもしれない……
って、今はそっちじゃなくて。
「だって私見たの!ファッションビルで、女の子といるところ」
翠君はきっと知らない。
私に気づく前に、碧君が私をそこから遠ざけてくれたから。
けど見てしまったからには忘れられない。
脳裏に焼きつくあの時の光景は、婚約騒動の時くらい衝撃を受けた。
「あの子、誰?どうして一緒にいたの?なんで――、」
「誤解」
「え?」
「それ誤解。別にそういう関係じゃない」
はっきり言いきる翠君に高鳴っていた鼓動が落ち着いていく。
どういうこと、と催促する前に彼が静かに口を開いた。

