俯きながら彼の前から遠ざかろうとした――その時、だった。
マナーモードにしていた携帯が胸ポケットで大きく震える。
物音一つしない部屋にいるせいか、その音はいつもより大きく聞こえた。
きっとお母さんからの返事のメールだな、と思ったけど、メールより長く振動するソレ。
不信に思い携帯を開くと、それは電話ではなく着信だった。
―――それも、私と翠君がよく知る人からの。
「……っはい」
気が動転していたせいか、部屋を出ることもせず翠君の前で電話に出てしまう。
そんな私を余所に電話越しから聞こえてきた声は、私を安心させるのに相応しい声だった。
『あ、柚?僕だけど』
「……うん」
結局私はいつだってこの声に……碧君に助けてもらいっぱなしなんだ。
少しずつ心拍数が落ち着いてきたのが自分でも分かるくらい。
碧君はどこかのお店にいるのか、まわりからざわざわと人の声が聞こえてくる。

