「ねえ、翠君」
一歩一歩、翠君との距離を縮めていく。
彼の手から本を取り上げてサイドテーブルに置くと、不愉快そうに眉を寄せられた。
でもそんなの関係ない。
まるで糸がプツリと切れたように、自分の意思だけで身体が動く。
彼に触れられる距離になった時、肩に両手をつきながら顔を覗き込んだ。
「私達、婚約者だよね」
ぐぐっと手に力が入る。
思ったより華奢な翠君は、痛かったのか微かに顔を顰めた。
シャツ越しに感じる体温が脳を刺激する。
「なのに、どうして部屋が別々なの?」
今日だけじゃない。
3ヶ月間手も繋がないなんて、結婚する前から愛がないみたい。
元々ろくに話をする関係じゃなかったからしょうがないことかもしれない。
けど、私だって寂しくなったりするよ。
触れたいって思ったりするよ。
同じ敷地内にいるのに、婚約前と全く変わらない関係。
話しかけるのも、キスを強請るのも、全部私から。
翠君の気持ちは誰にあるの?
……誰に向いてるの?

