「……っ、部屋」
「は?」
「部屋、入ってもいい?」
渡して終わり、なんて望んでいないの。
本当はこの鞄の件だって、翠君の部屋に行ける良いキッカケだと思っているんだ。
小細工をしなきゃ会えないわけじゃないけど、こういう事に頼ることしかできない。
「いいけど」
――短い返事と共に部屋の奥へ消えようとする。
オートロックだから早く中へ入らなきゃ。
私が部屋の中へ入ったと同時に、後ろのドアが音を立てて閉まった。
急に静かになった空間。
言葉に困って辺りを見渡せば、私の部屋とは少し違う構造のスイートルームが目に入る。
翠君は部屋の一番奥にあるベッドに腰掛けると、予め部屋に配布されているホテルのご案内をサイドテーブルに置いた。
……今までご案内読んでたのかな……
「で、用件は?」
くるりとこっちを向く視線。
翠君の鞄を持ちながら近づき、ベッドに腰掛けている彼の前に立つ。
いつもは私が見上げる立場なのに今は見下ろしてるから、なんか変な気分だな……