……聞き間違いだと信じたい。
誰かつっこんでよ。いや基本僕がツッコミ役だからいないか。じゃあコレもう夢でいいからさ。
なんて、頭のネジが吹っ飛び思考回路が破壊されている。
いやいやいやちょっと待て。
ひなた、とかよくある名前じゃん。はは、そうだよ、きっと知らない他人で――、
「何がだめなの?」
フ、と現実に戻らされる男の声……基、前の席から聞こえる声。
声色に聞き覚えがあるのはなぜだろう。
「だ、って、ここ、映画か……んっ」
ゾクリと背中に悪寒が走る。
映画なんかよりもっと迫力があるラブシーンに身体が硬直。
迫力っていうか……生ラブシーンだし。
美鈴さんは極力見ないようにしているみたいだけど、視線がチラチラと前にいっている。
「っは、陽向、も、やめ……」
「やめていいの?千里」
―――知らない他人だと信じたかったのに、裏切られた瞬間。
もうだめだ。自分の中でフォローの文字は消えた。
ただでさえ恥ずかしい今のシーンを、他人となれば『ああ、若いね』で終了できる。
が、知り合いとなれば別だ。
しかも知り合いより多少は上だと思われるこの二人。
ほぼ毎日顔を合わせてるし、一緒の時間を共有することが多い。
そんな彼等のこういうところは、はっきり言って見たくない。
……誰か助けて。

