やばい、この流れはまた奢らせてしまうことになる。
なんとか反抗しようとしたものの、既に美鈴さんは劇場の外に出ているところだった。
「……、情けな…」
普通、男が買いに行ってついでに奢って……というパターンなのに。
このままじゃヘタレだ。てかもうヘタレだと思うけど。
ポツリと吐いた言葉は暗い室内に溶けていく。
フと視線を前に向けた時、そこで初めて前に座っているのがカップルらしいことに気づいた。
なんでカップルかというと、無駄にベタベタくっついているから。
……なんとなく気まずい。
僕の心情に気づくこともなく、目の前でくっつかれて迷惑極まりない。
付き合うってこういうこと?と心の中で自問自答してしまった。
こういうこと柚と翠はしたりするのかな……いやありえない。
てか、翠が人前で柚にベタベタしてたらはっきり言って気持ち悪い。
想像しただけで顔が引きつった。
「はい、お待たせ」
その声にはっと我に返ると、紙コップを持った美鈴さんが笑いかけていた。
一先ずお礼を言って座席の横に置く。
無駄かもしれないけどズボンのポケットから財布を出そうとした時、「ねえ」と美鈴さんが口を割った。

