あの場から抜けたくて勢いで握ってしまったんだ。
なんかもう、今日だめだな僕。
「……謝らなくていいのに」
「へ?」
「何でもないわ。碧君、助けてくれてありがとう」
「あ、いえ……」
助けたっていうか割り込んだだけっていうか。
それに最初は美鈴さんだって気づけなかったし……
ストレートばかり見てきたから、おだんごにしてアップにするとイメージ変わるんだな。
大学生になった今も相変わらず黒髪だけど、髪型を変えてるから少し幼く見える。
いや、元々大人っぽいから十分年上っぽく見えるんだけどさ。
「その制服懐かしいわね」
「? あ、そっか私服……」
だったら僕も私服で来ればよかったかな。
制服じゃ明らかに高校生と主張しているし、多分僕が横にいても弟にしか見えないだろう。
対する美鈴さんはクリーム色のワンピースに薄いカーディガンを羽織っている。
うん、なんかアレだ。
大学生と高校生の違いって大きい。
「ねえ、あたし行きたい所あるの」
ぐいっ
右腕を引かれたと思えば、そこに絡む美鈴さんの腕。
え、と動揺した瞬間、ふわりと可憐に笑われた。
「いい?」
それは、行きたいところに行っていい?の意味なのか
腕を組んでもいい?の意味なのか……
彼女の言葉、表情からはどちらかは分からない。
一つだけ分かるのは
異常なほど高い脈拍数だけだ。
情けないことに固まってしまった僕は、彼女の問いかけに頷くことしかできなかった。

