「あっ、碧君」
「なんですか?」
「怒ってる?」
「怒ってるんじゃなくて腹が立ってます」
手を引っ張っているから美鈴さんの顔は見えない。
それが良いのか悪いのか、すらすら言葉が口から出てきた。
「どうして?」
「美鈴さんのこと悪く言われたからですよ」
「……あたし?」
「美人なのに男の趣味悪いとか――、」
そこまで言ってからはっとなる頭。
ちょ……僕、今何を……
怒りにまかせて本心ぶちまけてたような……
ぴたっと足を止めて美鈴さんの方を振り向けば、緩やかな笑顔がそこにあった。
「変ね。あたし、あの男が碧君のこと悪く言ったから怒ってるのかと思ったのに」
「え、や、別に僕のこと言うのはいいんですけど、」
……うまく説明できない。
それ以上言葉が出てこなくて視線を泳がすと、手を握っていることに気づき急いで離した。
「す、すいません」

