「じゃ、俺行くから」

「っえ、あ」



それきり彼の声が私に届くことはなく、どんどん離れていく距離。

シン、としている廊下に響くのは足音だけだ。

やがてその音すらも聞こえなくなって、私は一人廊下に残される。



「……、別々、なんだ…」



一緒にいるのに、朝までずっと一緒にいれるはずなのに

部屋は別々で、こんなにも離れている。


これじゃあ前と変わらないよ。

婚約者なんて、本当にカタチだけ。


真菜が羨ましがるようなことも本当に何もないんだ。



……私と翠君が婚約者、なんて

この状況を見て、誰が信じてくれるの?



「……っ、」



ぐぐっと手の平で握るカードキー。

そのまま静かに、差し込み口へ差し込んだ。