もの凄く広いロビーに入った途端、ホテルマンさんが鞄を預かってくれた。
そういうことに慣れていない私はとりあえずお礼を繰り返す。
翠君は何事もなかったように受付に行き、「予約してた麻生ですけど」と、スムーズに対応していた。
暫くしてフロントのお姉さんと翠君が私の元に来て、「お部屋にご案内します」……綺麗な笑顔を見せてくれる。
どうやら私達の荷物は先に部屋に運ばれたらしい。
ハ、ハイテクなんだなあ……
「み、翠君、こんな豪華な所でいいの?」
「は?」
お姉さんと共にエレベーターに乗った時、隣にいる翠君へ訊ねてみた。
「だって、ここ……高いよね」
「知らない。父さんが予約したから」
や、彰宏さんが予約した時点で高いホテル間違いナシ。
そもそもホテルに泊まったのなんていつぶりだろう。
家族旅行なんてずっと行ってないし、外泊も滅多にしないし……
家以外の場所で寝る、という行為にはなれてない。
「お待たせしました、こちらでございます」
エレベーターが開いて少し歩いた先――
客室のドアの前。
でも、普通の客室じゃない。
隣の部屋と……やけにドアの位置が離れている。
と言うか隣の部屋のドアが見えないんですけど……

