「はい、お待ちどうさま」
「っ」
タクシーのドアが開く。
あ、お金払わなきゃ。翠君またクレジットカード出しちゃうかもしれないし。
必死に正常心を保ち鞄から財布を出そうとしたけど、翠君が長財布から一万円を出しているところで。
運転手さんからお釣りを受け取り、「出て」と、私に声をかけた。
「っあ、うん、ごめん!……で、でもお金」
「それはいいから」
翠君がタクシーから降りた瞬間ドアが閉まり、タクシーは夜の闇へ消えていく。
そして――目の前には。
30階はくだらないくらいの高層ビル、じゃなくてホテル。
一目で理解できる。
このホテル……絶対宿泊費高い。
高校生が簡単に泊まれるような所じゃないってことは安易に分かった。
明らかに不自然なのだ。私がこのホテルの目の前に立っていることが。
まわりから不信の視線を浴びて背中が痛い。
けど、それに気づいているのかいないのか、翠君はさっさとホテルの玄関へ向かっていく。
一先ず私も追いかけたけど……ほ、本当にこんな豪華な所に泊まるの…?

