クロスロード


「あの時の翠君かっこよかったわよねえ。柚ちゃんのため一目散に走っていったんだから」


おばさんは何気なく言ったことだけど、急激にかあっと顔が赤くなる。

わ、私のためって……

その頃って5歳くらいだよね。5歳の私が羨ましいっ!

ぎゅっとグラスを握る手に力が入る。


「あ、ありがとう……」


フ、と口から漏れた言葉。

翠君は目だけ私に向け、「そんなこと忘れた」と、そっけなく返事。


うん、忘れちゃっててもいいの。

私のためにしてくれたってことだけで今でも十分嬉しい。


思わず顔が緩んでしまった私に、おばさんが優しく笑いかけてくれた。



「そうだわ。言うの遅くなっちゃったけど、婚約おめでとう!」


「っあ、ありがとうございます……っ」



とりあえず深く頭を下げる。

翠君もその場で御礼を言っていて、おばさんは予め用意してたのか大きな箱を出した。



「これ、つまらない物だけど婚約祝いに」

「え、い、いいんですか?」

「全然大した物じゃないのよー」