「せっかく来てくれたのに、あの人まだ仕事でいないのよ。ごめんなさいね」
あの人、とはおじさんのこと。
おばさんとは対照的な、無口で静かな人。
そっか。この時間じゃお仕事中だよね……
「それにしても何年ぶりかしらねえ。翠君にはお正月の時に会ったりしたけど、柚ちゃんは本当久しぶりよね」
「っあ、はい……」
「早いわねえ。二人ともあんなに小さかったのに」
おばさんは懐かしそうに頬に手を当て、マジマジと翠君と私を眺めた。
そう言えば小さい頃は、碧君も入れた3人でここに来たことがあった。
彰宏さんやお父さんが峰さん夫婦と話している間、私達は外で遊んだりしてたなあ……
「覚えてる?小学校に上がる前かしら。柚ちゃんここに来た時、熱で倒れちゃったのよ」
「えっ」
「その時にね、碧君は柚ちゃんに付きっきりで看病してて、でも翠君ったら急にいなくなっちゃって」
そう言いながら視線は翠君へ。
「やっと帰ってきたと思ったらそのまま柚ちゃんのとこ行ってねえ、風邪薬渡してたのよ」
「……あ、」
―――思いだした。
確か、お盆の時期。
遊びすぎて体調を崩した私は、碧君の手を握りながら眠って。
でも目が覚めた時、部屋の入り口に息を切らした翠君がいて。
何が何だか分からない私に無言で風邪薬を渡してくれたんだった。
……そっか。あれって峰さんのお家だったんだ。

