薔薇とアリスと2人の王子


 しばらく会話に参加せず、パンを咀嚼するに至っていたピーターが突然言った。

「ぼく、ロサ・アンジェラって薔薇知ってるよ!」
「何だと?」

 イヴァンが怪訝な顔つきで呟いた。
 一同の視線がピーターに集中する。ピーターはもぐもぐと口を動かしながら言う。

「どっかの国だか星だかの、王家の薔薇でしょ。王子は5年間、ロサ・アンジェラを守りきれば王様になれるって」
「どこで知った?」
「……噂だよ!」

 ピーターはニコリと笑うと、出かけてくる!と言って椅子から立ち上がる。
 家から出る寸前に、こう言ったのはウェンディだ。

「気をつけて。研究員に見つからないようにね!」

 研究員、という言葉にアリスが反応した。

「さっきピーターが研究所の人に追われているって言ってたけど、どういう事?」
「――え? あ、ああ…その、言いにくいんですが」

 ウェンディが困惑しながら、言葉を手探りで掴むように紡いでいった。

「あの子、空が飛べるようなんです」
「――へ」
「私は信じていません。しかし研究員の方達は、ピーターを研究所に連れて行って一度実験しようとしているのです」

 ウェンディの話はこうだった。
 幼い頃から“空が飛べるんだ!”と主張してきたピーター。
 まわりの人々は無視に決めこんでいたけど――ペンドラの国の公式研究所が目を付けたみたいなんだ。