テーブルの上に転がる真っ赤な林檎。イヴァンの赤髪よりもずっと赤かった。
アリスはその林檎をキッと睨みつける。
「あのお婆さん、シャルロッテの母親の差し金かもしれないわ!」
「母親って?」
「彼女は隣国の王女なのよ。母親にあの美貌を嫉妬されて殺されそうになったの。だから逃げてきて――この小屋にいるらしいわ」
シャルロッテに頼まれた、と老婆が言っていたけど嘘に決まってる。
シャルロッテに毒林檎など食べさせられないからね。
3人は家の裏に回って薪が置いてある所にこっそり林檎を捨てた。
しかしこれが――後に大変な事態を引き起こすだなんて、誰も気付かない。
< 6 >
昼下がりにさしかかった頃。
シャルロッテとハンス達が帰ってきてね。
3人は林檎と老婆の事はもちろん口にせず、それぞれに宿のお礼を述べた後は旅を再開する準備をしていた。

![[短編] 昨日の僕は生きていた。](https://www.no-ichigo.jp/assets/1.0.787/img/book/genre1.png)