薔薇とアリスと2人の王子

 可愛らしく怒ってみせたシャルロッテは、アリスのほうを向いて笑った。

「ハンスはこの森で最初に出逢った小人なんですぅ。森をさ迷うわたしを助けてくれて」
「好きなの? ハンスAのこと」
「そんなぁ! ハンスは小人ですし、顔はおじさんですよぉ~。わたし王子様と結婚する夢があるんですから」

 そう言ってはいたが、シャルロッテの新雪のような頬には赤みが差していて、明らかに照れていてさ。
 きっとハンスの事が好きなんだろうな、なんてアリスは思った。

 ふいに、シャルロッテがシチューをかき混ぜる手を止めた。

「赤毛の方から聞きましたぁ。“大切なもの”と魔女を探してるんですね~」
「そうね」
「大切なもの、それは愛です! 誰にでも共通する大切なものですよ~」

 シャルロッテはハンス(A)のことを想いながら、言っているのだろうか。
 大切なものは“愛”だと語るシャルロッテの言葉に共感できないアリスだったよ。
 けど、シャルロッテの可愛らしい黒曜石の瞳がきらきら輝いていたんで、シャルロッテの話に相槌を打つ。

 そんなことで夜は更けていった。