アリスが野獣の自室の扉を荒々しく開ける。
そこには白いワンピース風の寝着を纏ったクララが、野獣の前に立ちはだかっていた。
「やめてクララさん!」
クララはアリスの方をちらりと見る。
彼女が手に握っている護身用のナイフが光っているのにアリスは気が付いた。
「クララさん、聞いて。野獣さんは……」
「聞かないわ! 私はこの野獣を殺してやるの、ベルホルトの仇なんだから!」
野獣は固まっているようだった。険しいとも穏やかとも言えない曖昧な表情をしている。
隣にいるイヴァンは静かにクララを凝視していた。彼にしては珍しく何か考えているようだよ。
クララは頭に血がのぼっているようで、掠れた声で叫んだ。
「こんな……醜い、醜い野獣、死んでしまえばいいのよー!」
クララがナイフを振り上げた時、窓から満月がこちらを見ていた――。

![[短編] 昨日の僕は生きていた。](https://www.no-ichigo.jp/assets/1.0.787/img/book/genre1.png)