薔薇とアリスと2人の王子


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 時刻は朝の9時をすこし回っていた。
 ここでやっと、1階の部屋で寝ていた兄弟が起きたんだ。

「アリスは?」

 と、寝起きのカール。

「知らん。お前に愛想を尽かせて出ていったんじゃないのか?」
「まだ昨日のこと怒ってるのかなあ」

 カールがぼさぼさの黒髪を掻きながら、寝ていたソファから立って着替えをはじめた。
 続いてイヴァンが暁色の髪を結ってゆく。

「野獣といえば、元は王子なんですよね」

 カールがリボンで髪を縛りながら言ったよ。

「そうだな」
「兄さん、マエストーソの国の王子って顔知ってました?」
「さあ。そういえば此処はマエストーソの国だったな…」

 イヴァンの苦虫を押しつぶした様な顔に、カールはわずかに笑っていたんだ。

「あの国が近づいてますね」
「………嫌な予感がするがな」
「いつもの事でしょ。さ、食堂に行って食べ物を漁りましょう」

 コートを引っ掴むとカールは足早に部屋を後にした。