薔薇とアリスと2人の王子

「随分と野獣さんが嫌いみたいね」

 するとクララがパンを咀嚼していたのを止め、はっきり言った。

「あんな醜い獣、誰が好きになれる?」
「見た目はね。でも本当は、恋に臆病な繊細な人よ。……たぶん」
「カール君には言いましたけど、私は婚約者を野獣に殺されたんです」

 クララは整った眉をつりあげて、野獣への怒りを露にし始めた。パンを持つ手に力が篭っている
 アリスは宥めるように口を開く。

「クララさん、お願いよ、もう少しの間は逃げないであげて」
「心配無用よ。逃げるもんですか! 野獣を殺すまでは!」

 アリスはあんぐり開いた口が塞がらなかった。
 クララはそのまま荒々しく椅子から立って、食堂を出ていってしまったよ。
 ひとり、ため息を吐くアリスだった。