「女性に触れると持病が発症する。耐えられん」
「そうなの……?」
大きな体格に合わず頭を抱える野獣。
「それに呼んだはいいものの、この後どうするか決めていない」
そしてわざとらしくため息を吐いたのは、アリスの隣にいたイヴァンだよ。
「女と恋を育む時間なんてないぞ。満月までに人間に戻らないと死ぬんだろう?」
「そうだった……! 私はどうすればいいのだ?」
「クララに告白するのよ。死ぬ前にいい思いしなくっちゃ」
またしても狼狽える野獣に、アリスは吹き出しそうになったけど、あわてて堪える。
2階の廊下も暗いし埃っぽくて、イヴァンなんかはしきりに咳をしていたよ。
「しかしアタックとは、具体的に何をすれば良いのだ」
「晩餐にエスコートするとか? 優しく手を取って……」
アリスの答えに野獣は飛び上がった。
「そんな事出来ない! 私は女性に触ると蕁麻疹(じんましん)が出るのだ」
さっき言った持病って、そのことらしいよ。
こりゃ大変だ、とお化け屋敷のような廊下を歩きながら、アリスは思ったね。

![[短編] 昨日の僕は生きていた。](https://www.no-ichigo.jp/assets/1.0.784/img/book/genre1.png)