話を聞くと、女性は先ほどの侵入者の娘らしい。
野獣から逃げる代わりに娘を寄越すって約束を、ちゃんと守ったってわけ。
「わたしはクララ・ベートーヴェン」
玄関で顔を合わせたまま彼女が言う。
「いい名前ね。クララは立つの? それとも『運命』を弾くの?」
「ふふ、面白い子ね。あなた達は誰? 恐ろしい野獣がいるってパパから聞いたけど」
アリスは自分の名前を告げ、相変わらず無下にイヴァンとカールも紹介しておいた。
クララは20歳くらいだと思うよ。大人らしい可愛さがあった。
「貴方達は旅人なのね。どうしよう、わたし食べられるのかしら」
そんな彼女は、恐ろしい野獣にひたすら怯えていたんだ。

![[短編] 昨日の僕は生きていた。](https://www.no-ichigo.jp/assets/1.0.781/img/book/genre1.png)