薔薇とアリスと2人の王子


 話を聞くと、女性は先ほどの侵入者の娘らしい。
 野獣から逃げる代わりに娘を寄越すって約束を、ちゃんと守ったってわけ。

「わたしはクララ・ベートーヴェン」

 玄関で顔を合わせたまま彼女が言う。

「いい名前ね。クララは立つの? それとも『運命』を弾くの?」
「ふふ、面白い子ね。あなた達は誰? 恐ろしい野獣がいるってパパから聞いたけど」

 アリスは自分の名前を告げ、相変わらず無下にイヴァンとカールも紹介しておいた。
 クララは20歳くらいだと思うよ。大人らしい可愛さがあった。

「貴方達は旅人なのね。どうしよう、わたし食べられるのかしら」

 そんな彼女は、恐ろしい野獣にひたすら怯えていたんだ。