イヴァンが野獣に訴える。
「とりあえず何か食わせろ。腹が減って死ぬ。俺のいた城では常にメイドがいたぞ」
「元はといえば、あなたが食料を見つけられなかったからじゃない!」
彼を非難するアリスだった。まもなく時刻は、23時になろうとしている。
「裏へ続く廊下の途中のキッチンで腹ごしらえするといい。2階は私の自室があるから、近寄るな」
野獣の言い方は相変わらず少し怖かったけど、もとが人間だったと分かればもうへっちゃらだ。
アリス達は2階に消える野獣を見送る。そのままキッチンに行こうとしたんだけど、ノックの音に止められる。
「こんな時間にお客かしら?」
玄関のドアを遠慮がちにノックする音。
野獣が2階から降りてこないんで、代わりにアリス達がドアを開けてやったんだ。
「あら、あなたは……?」
そこには、薄暗い闇に映える白い肌が浮かびあがっていた。
訪問者は茶髪のふんわりとした髪が印象的な、穏やかそうな美女だった。
「パパの言いつけで来たわ」
穏やかそうな外見とは裏腹に、ハッキリした、活発そうな口調にアリス達は面食らった。

![[短編] 昨日の僕は生きていた。](https://www.no-ichigo.jp/assets/1.0.781/img/book/genre1.png)