薔薇とアリスと2人の王子


 男の言葉にアリスが眉をひそめた。

「価値のある薔薇? どういうこと、カール」
「この星のものじゃないから、高く売れるって意味だろう」

 そう答えてはくれたけど、なんだか取って付けたような返事でさ。
 アリスは少々納得いかなかったけど、今は黙っとく。

「ま、いいわ。それよりあなた、早くこの屋敷から出なさいよ。恐ろしい野獣がいるんだからバレたら大変よ!」
「――私のことか? 人間が増えているな。この男はなんだ」
「あっ!」

 突然の声――ほのかな明かりが差しこむ扉を見て、アリスは固まった。
 なぜって、そこには野獣が(なぜかイヴァンも)仁王立ちしていたんだもの。

「勝手に私の屋敷に入ったのだな」

 野獣が男に言った。
 爛々と金色に輝く野獣の加虐的な眼光に睨まれて、男が短く悲鳴を上げた。

「な、何だこの化け物は! 触るな!」

 慌てる男を野獣は愉快そうに見下ろすと、男の首根っこを掴んでさ。
 こう言った。

「逃してやる代わりにお前の娘をこの屋敷に来させるんだ、夜が明ける前までに!」

 そう叫ぶ声はまるで銃声のように鋭い響きを以てあたりに響いた。