侵入者の行動にアリスはおおいに驚いてね。
「ちょっと、やめなさいよ!」
侵入者の男がロサ・アンジェラに手を掛けたとき、その手首を掴んですぐさま捻ってやったのはカールだった。
「痛っ!」
と、侵入者の呻き声。
「誰なんです? いきなり入ってきたかと思えば僕らの大切な薔薇を堂々と盗もうとするだなんて!」
カールがそう言っても侵入者は何も言わず、もがくだけだったんで、仕方ない。
ため息を吐いたカールは自分の髪を結っていたリボンをほどき、それを手錠代わりに侵入者の手首を縛ったんだ。
「あなた誰なの?」
アリスがランプで侵入者を照らすと、無精髭を生やした中年男の顔が浮かびあがった。
どこにでもいそうな、普通の街人といった奴だよ。
「どうして盗もうとしたの? ロサ・アンジェラを知っているの?」
「……その薔薇は知る人ぞ知る、もの凄く価値のある薔薇なんだ!」
男の声は縛られている苦しさのあまり老人のように掠れていた。

![[短編] 昨日の僕は生きていた。](https://www.no-ichigo.jp/assets/1.0.781/img/book/genre1.png)