ひょい、とカールが小箱を取り上げる。
「兄さんの形見だ。置き忘れていったんだろう」
「ね、中の薔薇見てもいい? そういえばロサ・アンジェラをきちんと見た事ないの」
「もちろん。枯れてるけどね」
ということで、アリスは初めてロサ・アンジェラの実態をしかと見た。
宝石(アリスは宝石に詳しくないけど、後から聞いたらルビーだったみたい)に飾られた小さい小箱。
蓋をちょん、と開けると、たまげた! ロサ・アンジェラは普通の薔薇より、ひとまわりほど小さかったんだ。
「確かに枯れてる。でもドライフラワーみたいで綺麗だわ」
「代々王家に継がれる薔薇で、名前も“天使の薔薇”だ。枯れても美しいだろう?」
かつては真っ赤であっただろう薄茶色の薔薇が箱にぴったり収まっていてね。
アリスはしばらく眺めていた。
「王家の薔薇を売ればどのくらいになるのかしら」
そのときだ。
急に部屋の扉が荒々しく開いたかと思うと、何者かがズカズカと入ってきてさ!
その人物は、扉の近くにいたアリスに掴みかかったんだ。
「何!? 誰!?」
てっきりイヴァンかと思ったけど違う。はたまた野獣かと思うと、不審者は普通の人間でさ。でも知らない人だったんでアリス達は驚きを隠せない。
「その薔薇をよこせ!」
侵入者はそう叫びながら、アリスに飛び掛った。

![[短編] 昨日の僕は生きていた。](https://www.no-ichigo.jp/assets/1.0.781/img/book/genre1.png)