「食堂が全く見つからないじゃないか。もっと分かりやすい造りにしろ」
なんて文句を言いながら2階の廊下をさ迷うイヴァン。
屋敷なんてどこも似たような扉の部屋だ。2階はほとんど個室だしね。
宛てもなく廊下をフラフラしていると、ある肖像画が飾ってあった。
この屋敷で美術品は初めてだから、足を止めてみたよ。
「青年――貴族か?」
肖像画の中で微笑む青年の恰好を見ると、貴族と分かる服を着ていた。
よく見るとこの肖像画は埃を被っていなくてね。手入れされてるのだろうか。
絵に近付いたイヴァンがある事に気が付いて、額縁に手をかけながら、
「これは貿易商として有名なアドルフ家の紋章…?」
そう呟いたとき。
「そこで何をしている!」
「わっ」
突然の、低い猛獣のような声で罵声が聞こえて物凄くびっくりしたよ。
振り向くと、あの野獣がいた。

![[短編] 昨日の僕は生きていた。](https://www.no-ichigo.jp/assets/1.0.778/img/book/genre1.png)