屋敷のホールには明かりがぽつぽつと点っていたけど、やっぱり薄暗くてね。埃だらけの蜘蛛の巣だらけ! まるでお化け屋敷だ。
体格のいい男がホールのど真ん中にある階段に佇んでいた。吹き抜けの二階に繋がる階段だよ。
暗いもんだから、体格しか見えなくてさ。
「あの、ありがとう。私たち――」
言いかけたとき、アリスは背筋が凍った。わずかな明かりに照らされた恐るべきものを垣間見てしまったんだ。
「1階の部屋なら好きに使うがいい」
地を這うような声で言う領主の姿は、古型の紳士服を着ていてさ。それだけなら普通さね。
アリスが驚いたのは、紳士服を着ていたのは二本足で立つ大きな獣だったからだ。
紳士服にはなんとも不釣り合いな茶色いたてがみを持っていてさ。まるでライオン、そんなもんじゃない! まさしく人間を食い荒らす野獣だ。
「い、1階ね……分かったわ……」
震えるアリスを、イヴァンとカールは不思議そうに見ていたよ。

![[短編] 昨日の僕は生きていた。](https://www.no-ichigo.jp/assets/1.0.776/img/book/genre1.png)