いかにも分厚い扉を叩くと、低いノック音がする。果たして中の人物にまで聞こえているのかも怪しい低い音でね。
「やっぱり空き家かしら」
そう言ったとき。
「――この家になんの用だ」
扉の向こうから掠れた低い声がしたんで、アリスはびっくりして飛び上がった。
イヴァンとカールも、本当に住人がいたんで驚いていたよ。
「……あ、あの。旅の者なんですけど、一晩泊めてもらえないかと思って訪ねたんですが……」
内心震えながらも、アリスは言ったよ(何しろもう引き返せないからね)。
領主本人だと思われる威圧感のある低い声は、あっさりそれを承諾してね。
「いいだろう。入るがいい」
いとも簡単に来客を許す領主に、3人は嫌な予感が最高値に達した。
引き返せないんで、重い扉を開けて中に入ったんだ。

![[短編] 昨日の僕は生きていた。](https://www.no-ichigo.jp/assets/1.0.761/img/book/genre1.png)