いかにも分厚い扉を叩くと、低いノック音がする。果たして中の人物にまで聞こえているのかも怪しい低い音でね。

「やっぱり空き家かしら」

 そう言ったとき。

「――この家になんの用だ」

 扉の向こうから掠れた低い声がしたんで、アリスはびっくりして飛び上がった。
 イヴァンとカールも、本当に住人がいたんで驚いていたよ。

「……あ、あの。旅の者なんですけど、一晩泊めてもらえないかと思って訪ねたんですが……」

 内心震えながらも、アリスは言ったよ(何しろもう引き返せないからね)。
 領主本人だと思われる威圧感のある低い声は、あっさりそれを承諾してね。

「いいだろう。入るがいい」

 いとも簡単に来客を許す領主に、3人は嫌な予感が最高値に達した。
 引き返せないんで、重い扉を開けて中に入ったんだ。