薔薇とアリスと2人の王子

 エルザが落とした涙がルートヴィヒの冷たい頬を伝っていった。
 ゾフィーが海の中から、珍しく謙虚に言う。

「元気出してん。死んだ人魚は泡になって、またどこかの海で生まれるわん。あなたも人魚に戻れたんだから、また会える時が来るわよん」

 果たしてそれはフォローなのかアリスには分からなかったけど、エルザは何だか納得した様子で頷いていた。

「分かってるよ、エセ魔女。私も泡に還る」
「……へ?」

 一同が一斉にエルザを見る。
 いつの間にか彼女の涙は姿を消し、その瞳には強い意志が宿っていた。

「私も人魚のまま死ぬ。そうすればルートヴィヒと同じ、泡に還れるんだろう?」

 エルザの思わぬ言葉にイヴァンが後ろから口を出した。

「逆にお前がルートヴィヒを追うのか。せっかく人魚に戻れたというのに」
「ルートヴィヒのいない海など、戻る意味はないんだ!」

 彼女は強く言い放ち、ゾフィーに“後始末を頼む”と告げた。
 自らの落とした涙で濡れたルートヴィヒの頬に両手を添える。そして穏やかな声で言った。

「アリス、私は大切なものに失くしてから気が付いた。お前はそうならないよう……祈っている」
「エルザ……」

 そう言うエルザは微かながら微笑みを浮かべていたよ。