混乱してしばらく黙ったままルートヴィヒの顔を見下ろしていたエルザだったけど、やがて状況を理解して項垂れた。
エルザは痛嘆の表情を浮かべ、瞳は涙の膜で覆われていた。
「わ、私のせいだ。私が、素直に人魚に戻れる方法があることを言わなかったから…」
言いながらルートヴィヒの頬を愛おしげに撫でる様子は、今までの気丈な彼女のものだとは思えないほど優しい手つきだった。
アリスもエルザの横に座り、それを見つめる。
(兄弟は余計なことを言いそうだったから、視線で寄るなと伝えたんだ)
「私がもっと素直だったら……!」
ついに彼女の両眼から止め処なく涙が溢れ始める。
「いいのよ、エルザ……。誰も悪くないわ」
「私はいつも意地を張って、恋人のルートヴィヒに愛してるの一言も……今まで……一度も――」

![[短編] 昨日の僕は生きていた。](https://www.no-ichigo.jp/assets/1.0.787/img/book/genre1.png)