エルザの胸に心臓が戻ってすぐだよ。
「――あ……?」
頑なに閉じられていたエルザの瞼が開き、途端に人間の両足は尾びれに変わった。
エルザは息苦しそうに咳き込んでさ。
「エルザ? 大丈夫?」
アリスはエルザの尾びれを見た。青色の、暗闇でも分かる程の美しさだったよ。
咳を調えたエルザはゆっくり上体を起こし、自分の尾びれを撫でる。
「私……人魚に戻った?」
「私のおかげよん。感謝することね~」
海の中から顔を出すゾフィーにエルザはいち早く反応した。
「あっ! お前は、父上に金で釣られて私を人間にしやがったアホ魔女!」
エルザは辺りを見渡すと、隣にルートヴィヒが横たわっている事に気付き眉を寄せた。
「ルートヴィヒ? なぜここに?」
そこにアリスが遠慮がちに声を挟む。
「ルートヴィヒさん、エルザが死んだと思い込んで、その…後を追って――」
「は!?」
エルザが声を上げた。彼女はアリスの顔と動かないルートヴィヒを交互に見つめてひどく動揺している。
「彼は“人間の姿で死ぬ”ことが、エルザが人魚に戻るための方法だと知らなかったでしょ?」
と、アリス。

![[短編] 昨日の僕は生きていた。](https://www.no-ichigo.jp/assets/1.0.787/img/book/genre1.png)