「あら、あれかしらん」
ぷっくりとした唇でそう言うと、ゾフィーは南の方に泳いでいった。
エルザのものだと思われる、明色のワンピースが見えたんでね。
「……あらん?」
2人に近づいたゾフィーは気が付いてしまったんだ。
エルザとルートヴィヒは2人寄り添うようにして力無く海面に浮かんでいた。
2人共ぴくりとも動かない。
「遅かったわ。彼女を追ったつもりだったのかしらん。これからエルザは人魚に戻れるっていうのに」
人魚が死ぬ方法。人魚は自らの心臓を取り出せば死ぬことになるんだ。
人魚の心臓は蓬莱の珠のようでさ。ルートヴィヒの手には自らの胸から抉り出した美しい心臓が握られていた。
「とりあえずお兄さん達の所に持っていきましょ」
ゾフィーは2人を抱えてもと来たところを引き返していった。

![[短編] 昨日の僕は生きていた。](https://www.no-ichigo.jp/assets/1.0.787/img/book/genre1.png)